授乳中の歯科治療
授乳中のお母さんの診察時に、時々「お薬を飲む場合、授乳は中止しなければなりませんか?」と質問されることがあります。
母乳は吸わせないと分泌が減り、それを契機にせっかくの母乳育児をあきらめることになりかねません。ご存じのように母乳は赤ちゃんにとって最も適した栄養源であるばかりでなく、スキンシップをはじめ様々な利点が母子双方にあります。
薬物が母乳に移行する仕組み
母乳の材料は血液です。母親が薬を飲むと、吸収された成分は血液中に分布しますが、分子量が小さく、脂に溶けやすく(脂溶性)、アルカリ性のものは母乳に溶けやすくなります。
血液中のタンパク質に溶けやすい薬は母乳に溶けにくいため移行しにくくなります。これらの性質を考慮して、我々は薬を処方することになります。
赤ちゃんと薬の関係
乳児は成人と比べて薬の代謝に影響するいくつかの特徴があります。
乳児に薬を投与する場合以下のようなことを考えますが、母乳を通して移行する薬についても同じことを考慮する必要があるのです。
01. 胃酸の分泌が少ないため酸性の薬は吸収が悪くなります。
02. 体重あたりの水分量が成人より多く、この水分(細胞外液)に分布する薬の濃度が成人と異なります。
03. 生体の防御機構が未発達の為、血液を通して脳に運ばれる薬の濃度が濃くなります。
04. 肝臓と腎臓の働きが未熟なので、薬が体外へ排泄されにくくなっています。
授乳中の薬の選び方
授乳中の薬は慎重に選ぶ必要があることは当然です。
そこで薬の注意書きを見てみると、「授乳を避ける」「授乳中は投与しないことが望ましい」
「治療上の有益性が危険性を上回る場合だけ投与する」「安全性は確立していない」
という書き方が多く、額面通りに受け取れば投与できない薬がほとんどです。
このため薬の投与中は授乳を止める方向へ行きがちになるのです。
しかしよく調べてみると、必ずしも中止するほどの危険性はない薬もあり、母子のQOL(生活の質)の観点から、安全性を確保しつつ、できるだけ母乳を続けるための目安が、日本や欧米の専門家の間で提言されています。